頭を離れない患者さん
2年ぐらい、「腰部脊柱管狭窄症」で私の外来に通っている患者さんがいる。
調子のいいときも悪いときもあった。
歩けなくなっては困ると、毎日毎日、休み休み歩いている。
半年ほど前に、たまたまほかの曜日にかかったら
脊椎専門の大先輩の当番の日で
「私の病院で手術をしてあげる」と
とんとん拍子に話が進み、その患者さんは手術を受けた。
私は看護婦さん伝いに、そのことを知った。
5ヶ月ほどして、私の外来に久しぶりに現れた。
人が変わったような硬い表情にドキッとした。
手術後も痛みは変わらず、仕事ができなくなったために小さな町工場をたたみ、機械を売ってしまったこと、息子が失業して借金があるらしいこと、眠れないことを、切々と訴えた。
手術をした先輩医師には相談したか、と聞くと
「リハビリをがんばれって言われるだけなので、退院してから1回しか行っていない」という。
決して評判の悪い医師ではないし、わざわざ自分の病院に連れて行ってまで手術をしたということは
その患者さんの責任はもつ、ということだと考えて
先輩医師の外来への受診を勧めた。カルテに今日お話してくださったことを書いておくから、きっとなにか案を出してくださいますよ、と。
3週間後、前と変わらない状態で来院。
カルテには、先輩医師の字で「Lumbago(腰痛)(+)、うつ状態。」とだけ書かれ、睡眠導入剤と抗うつ薬が処方されていた。
聞けば、「ボーっとなるから飲んでいない」という。
「心のケアを一緒にすることが大事。長く痛みを患っている方は、気持ちもふさいできてしまうから、脊椎の専門の先生はそういう患者さんの心のケアも出来る人が多い。ボーっとしすぎるなら調節が必要だから、もう一度先輩医師の外来で相談するのが一番いいと思う」とお話した。
なんとなく、引っかかるものを感じながら、患者さんの背中を見送った。
看護婦さんが「でもね、あの先生、あんまり患者さんを親身に診ないのよ。仕事がしたくないって感じ。あの患者さんもすっかり様子が変わっちゃったわね・・・」とつぶやいた。
一度メスを入れた患者は、とことんまで責任を負うべきだと思うし
先輩医師のように、私は精神科の薬を使い慣れていないので調整に自信はない。
心療内科や精神科に紹介すると、こういう患者さんの場合、「痛み」が主症状なので「それについては整形外科で・・・」と、治療が中途半端になることも多い。
「では、私のところに顔を見せに来てください」と言いたいのは山々だが・・・
今後、先輩医師といい関係を築いて治療がうまく行ってくれることを祈るばかりである。
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